江場 康雄


 ハンガリーのブダペスト、チェコのプラハと旅をした。
 世界遺産など数々の観光スポットや施設を興味深く回ったが、最も印象的で心に残ったのは、中世に建てられたプラハのユダヤ人街(ゲットー)とその墓地だった。
 まず驚いたのは、展示場の壁という壁に書かれている名前だった。第二次大戦時に600万人のユダヤ人が殺されたというが、その時、チェコ国内で命を失った人々の名である。とにかくどこまで続くのか、と、思ったほどの数だった。
 胸をしめつけられたのが墓地であった。ゲットーの中の人口密度が高いため、一つのお墓に土葬にする死者を何人も何人も積み重ねて葬ったというのだ。
 この旅に今回も、活字中毒の私は、5,6冊の本を持参したが、なんという偶然かその中に、たまたまマーヴィン・トケイヤー著、加瀬英明訳の「ユダヤ商法」(日本経営合理化協会)があった。
 私は、この旅のあいだ熱中して読んでいた。ユダヤ人のこと、その根底にある民族の力、その源泉が何であるのか、ほんのわずかであるが知ることができた。
 今日、ユダヤ人は世界で1500万人。人口60億の0.25%である。その中で、世界に名をなすユダヤ人をあげれば、枚挙にいとまがない。世界最大の金融財閥ロスチャイルド家、シェル石油マーカス・サミュエル、通信王ロイター、ジョージ・ソロス、グリーン・スパン、ドラッカー、スピルバーグ・・・。そして、ノーベル賞を例にとると、20世紀におけるユダヤ人の受賞率は20%を超えている。また、世界でトップ400人の億万長者のうち60人がユダヤ人であり、全体の15%を占める。
 5000年の歴史をもつといわれるユダヤ民族は、紀元70年にメソポタミアのユダヤ王国を追われ、1948年の建国まで、1900年以上流浪の民として世界に四散し、安住の地を得られなかった。
 「ユダヤ商法」の本質とは、ユダヤ人がもっている、その恐るべき逆境の中から業を起こすという根源的な力のことをいうのである。ユダヤ人は、「家族」と「本」、特に「聖書」と聖典「タルムード」を大切にしてきた民族である。そして、ユダヤ商人の基本は「知力」であり、それは「正直」であることと、「個性」が支えている。
 ユダヤ商人の真髄の格言がある。「人が死んで天国に行くと、天国の門のところで最初に聞かれることは、『おまえは商売で正直であったか』。神は、どれだけ祈ったかとか、どれだけ慈善を施したか、どれだけ人を助けたかということは、その後でたずねる」商人の目的はあくまで利潤の追求であるが、それは社会的に正当な手段でなければならない。
 日本のバブル崩壊は、「赤信号みんなで渡ればこわくない」現象の行き着いたところである。
 先日、札幌で仲間といい時間を共有した。友人の一人が、「小泉総理、大リーガーのイチロー、サッカーの中田に共通しているもの、それは個性だ」と、個性時代到来論を面白く語った。
 諸君、群れをなす行動や建て前の世から、個性、異色、本音の世の創造へ一緒しないか。
2001年7月