GTKI

私がとある知人から聞かせてもらった話である―。

晴天のなか、散り始めた桜を眺める男がいた。彼は借金を抱えている。しかし、彼は既にカード破産などを経験しているため、「大きな顔」でお金を借りることが出来ない。人間誰しも、夢を見るものだ。彼ももちろん、その例に漏れなかった。彼の夢に必要なものは、ギャンブルと適度なアルコールであった。一攫千金と、つかの間の安息を得るために。ただ、先立つものにはどういうわけか、昔から嫌われていたのだ。

それは三ヵ月後のある真夏日のことだった。「何か困ってるんですか?」とある男が声を掛けてきた。身なりはいたって簡素だったが、右手にはめた時計が印象的だった。彼にとってはおそらく、天の声だったに違いない。また季節柄、ちょうどうだるような暑さで、身動きが取れないような困難な時に差し込む「一陣の風」のようでもあった。社会的な信用が地に落ちてしまった彼にとって、その利息がいかほどのものだというのか。しかも借りるための手順、返済方法自体ははっきりしている。資金の出所も明らかだ。あとは借りた分と、その利息を自分自身で払えばいい。こう決断し、彼はこのはからいを快く受け入れた。
こうしてワラをつかんだ彼だったが、一向にイネが成長しない。肥沃とはいえないが、植える土壌が彼にはあったのに、だ。幸か不幸か、彼には「ナエ」と「ワラ」の区別ができなかったようだ。まあ、海で溺れるようなほど困難な時だったのだから、無理もない。そのため、秋になっても収穫ができなかった。こうして返済は滞っていったのだが、男はその後もしばらく、笑顔で彼と交流を持った。時には田んぼに出かけていって、草刈りも手伝った。土壌もさることながら、周辺環境が悪ければ資産価値が見込めないからだ…。

「私が何とかしてあげましょう」夢と現実とのギャップにようやく気づき始めた彼のもとに、別の人間が現れた。以前の男とは正反対で、彼の身なりは立派なものだ。ブランド物のスーツをさりげなく着こなし、左手には時計がキラキラ輝いている。紳士と呼ぶにふさわしい。この紳士は彼をいたわるように優しい口調で話し始めた。
「残念ながら、あなたはあの男につかまってしまいました。私には同じ志をもった仲間がいます。仲間たちの好意をもとにして、あなたを救うことができます。私たちと共にがんばりましょう」
 二度目だったため、さすがに慎重な彼ではあったが、見た目の雰囲気と柔らかな物腰を信じることにした。この紳士はその後、言葉通りの「好意」でもって、少なからず一時的には彼を救ったという。ただ、紳士の仲間がどこにいるのかとか、どのようにして集めた「好意」だったのかについては結局、分からず終まいだった。風の噂によれば、紳士の身なりも少なからず、この「好意」の恩恵にあずかっているのでは、とのことである。その仲間たちもみな、この紳士と同じ風采を備えているのだろうか。それとも…。しかし、彼にとってみれば、こんなことはどうでも良かった。ただ1つ彼の印象に残ったものは、センスのいいスーツからのぞいている、真紅のネクタイだった。

以上が知人との雑談のなかで得た小話である。正確に言うと、小話をもとにしてかなりの着色を施した。その後、彼がどうなったについては、時間の都合もあって残念ながら聞けなかった。借金を抱えることになってしまった彼は、まことに気の毒なことだと思う。きっと様々な事情があったに違いない。そして、そこに手を差し伸べる人たちにもまた、様々な立場があることを知った。私は、少なくとも借金のためだけに「右往左往」せざるを得ない人生だけはできれば送りたくないな、としみじみ思った。