土屋 朋子

自転車の 世界選を見に行きませんか

 新しい世紀という気分も手伝って、いつもより念入りに、事務所の古い書類の整理をしていたら、懐かしい書類がたくさんでてきた。その一つ、1992年付けの企画書「北海道を日本のブルターニュ(自転車のメッカ)にするために」の書き出し部分を少しだけ紹介しよう。


 「最近、インタビューをしながら気のつくことは、自転車についてまじめに考える人であればあるほど、日本には、もうロードレースをする場所なんかありませんと、あきらめに近い声が返ってくることの多さだ。それほど、日本のロードレースの状況は悲劇的なのだろうか。
 ちょうど折りも折り、日本にやってきたアイルランドのナショナルチーム監督の、「北海道は、日本のブルターニュになれる」という言葉に強い衝撃を受けた。「北海道のあの風景、素晴らしい気候。ここには、ヨーロッパにひけをとらない自転車のための環境がある」と彼らは絶賛する。
 日本の自転車選手の距離感とスピード感は、ヨーロッパの選手に比べると大人と子供ぐらいの差があるという。例えば、日本選手たちにとっての100キロは、ヨーロッパの選手たちの200キロに相当し、280キロ走って長いかなという感じだという。この差を埋めていくことのできる環境は、日本では北海道にしかないのではと思う。
 日本で最初のステージレースを行った北海道は、レースを行うだけではなく、世界的な視野に立って日本の自転車文化そのものを育てていける地域なのだ。バブルの時代が終わりを告げ、新しい開発の姿が求められる今、地域と補助金の形を越えて、北海道の全地域で普遍的に使っていける、『自転車』というソフトをキーワードにした、これは、新しい北海道のイメージ作りを目指す提案である」


 あまりよくできた文章とはいい難いが、ていねいに読んでもらえば、時代を感じさせるキーワードがたくさん入っていて興味深い。しかし、私が問題にしたいのは、そう、ブルターニュなのである。
 2000年の自転車世界選は、フランスの北西部、ブルターニュ地方で行われた。終わってしまえば何ほどことでもないような気もするが、記念すべきミレニアムの大会が、自転車のメッカでもあり、フランスの英雄、ベルナール・イノーの故郷でもあるブルターニュで行われることは、当然のことだった。オリンピックやサッカーの世界選ほどではないにしろ、毎年の自転車世界選手権がどこで行われるか(国名といういよりも、都市名、地域名が顔になる)は、重要な問題である。1990年に、日本でも世界選が開催されたことを、ご存知だろうか?。
 私の場合、プレス関係の組織を通じて、一年も前から宿泊の案内が届き、予約を入れ支払いを済ます。小さな町にたくさんの関係者や観客が押し寄せるのだから、こればかりは黙って手続きしておくしかないと思っているからだ。
 優れた自転車選手を輩出した北の地方は、どんなところなのだろう、言葉だけでしか知らない、あこがれのブルターニュに行ける!十月が待ち遠しかった。