北原 理作

 農村は何かと暗いイメージがありますが、生産の場です。憩いの場です。物の生産だけでなく、情報の発信も出来ます。これからは地方分権の時代です。その代わり、農村にはやる気が求められます。経済的な自立も、楽ではないですが求められます。お金があれば出来ることは、お金を国からもらえば誰でも出来ますが、リゾートなどの失敗をみれば、限界があることは明らかでしょう。農村や地方には、都会や中央にはない良さ、魅力があります。地方を無視して国家の発展はありえません。でも地方に無駄なものや活かされていないものが多いことも事実です。自分達の足元から見直す必要があります。
 また、物流だけでなく、生産者と消費者の繋がりや交流が、既存の観光スタイルを打破してもっと活発になるべきです。そのためには、北海道に魅力を感じている方々が、北海道に何を望んでいるかを意識する必要があります。もちろん住民生活の充実も大切であることは言うまでもありません。そして何よりも交流の場が必要です。美幌峠で観光客に対して実施したアンケートからも、自然環境に最も魅力を感じている傾向が窺われました。
 峠牧場のように北海道らしい景観を味わえる場所で野生生物を見ながらホーストレッキングを体験出来ることは観光客にとっては最高の思い出になるでしょう。さらに観光客だけでなく、地元住民、子供たちの自然体験教育の場としても生かせます。エゾシカは数多く生息し、道民や観光客にとって身近な可愛らしい動物です。また、ヒグマやシマフクロウなどと違い、観察対象として最適な大型野生動物です。さらに、その生態学的な情報は、地域における自然環境や産業を考える上で価値が高いと思われます。
 自然環境の保全と農林水産業の活性は、本来両立させるべきものです。しかし農地や林地を拡大したり、資源の乱獲を行えば、自然に大きな負荷を与えることになります。現状はさらに、離農による耕作放棄地の増加も懸念されています。背景には、後継者不足があり、結果的に自給率の低下を招いています。そのように生産現場が厳しい状況に置かれている中、さらに有機栽培、糞尿処理、野生生物との共生などを望まれることは、生産者にとっては厳しい要求でしょう。消費者の理解とサポートが必要です。
 防鹿柵の設置は、住み分けになる反面、野生生物の餌場が急激に減少し、さらに移動も妨げられるため、悪影響もあります。森林は、あらゆる野生生物にとって棲みにくいものになっています。森林面積は確保されていますが、質が低下しています。林業との調和も求められます。生息環境の保全なしに野生生物の保護はありえません。
 システムが上手く機能すれば、被害補償も含めて、野生生物の生息環境の保全・復元が実践されるはずです。つまり、観光客や住民が、利用すればするほど、楽しむばかりでなく、地域の環境は益々良くなり、産業は活性化する、後継者も増えるという循環型の社会を築くことが必要だと感じます。あとは、個々の意識と行動の問題です。ぜひ皆様方の御力をお貸しいただきたく思います。