土屋 朋子

Plus-Press No.86 2002.03.30

初心に返り、若い選手たちとアイルランドに出かけます。

ミルク・ラスの参加選手が決まりました。
今年のアイルランド遠征のいきさつについては、メールの配信や多くの方々の情報発信のサポートがあり、その概略をご存じの方も多いと思いますが、今一度おつきあいください。

5月19日から始まる今年のアイルランド一周ステージレース(ミルク・ラス)。毎年のことながら、前年の秋から、参加チーム探しをはじめてきた。ちょうどこの時期、日本で開催されるツアー・オブ・ジャパンというステージレースとスケジュールが重なるため、日本のトップチームの参加が難しいという事情も、毎年のことである。そして結局のところ、参加可能なチームを見つけることができず、アイルランドには、今年は参加することができない旨、返事をするしかなかった。同時に、私がこのレースに係わることも、終わりになりそうだというメッセージを添えたのは、最近自転車競技の世界に夢を失いつつあることに加えて、年令的なことや経済的なことも含めて、そろそろこのきつい(けれど楽しい)仕事を終えてもいいのではという、気持ちが強くなりはじめていたからだ。それに対して、アイルランドからの、「チームは組織できなくても、あなたを招待するから..」という言葉にどっぷりと漬かってしまい、「最後のラスだ、気楽に楽しもう!」と、単純に思っていた矢先、コナトンさんからのメールが届いたのだ。「TOMOKO、君がはじめてアイルランドに選手を連れてきた時のことを思いだして欲しい。初心に返って、あの時のように選手を集め、50周年の記念大会に参加して欲しい。アイルランドで必要な経費は、スポンサーを捜したり、友達に声を掛けたりして何とかするから、心配しないで..」と。私はこのメールに、ショックを受けた。そうか、「初心に返る」か!私はこの10年の間に、いつのまにか「レースに勝ちたい、日本チームとしていい格好をしたい、少しでも走れる選手を集めたい」といったような気おいに惑わされて、最初の頃の「若い選手たちに海外で走る機会を!」という素直な思いをどこか放棄してしまっていたことに気づいたのだ。そうだ、出来上がったチームの参加は難しくとも、若い選手たちがいるじゃないか。初期の頃のように、走れても走れなくとも、若い選手たちの可能性を信じよう!私の脳裏には、この10年一緒にがんばった選手たちのことどもが浮んでは消えた。今になってみると、あの頃は、知らないことも多かったなあと思う。私は、すぐさまアイルランドにメールを送り、日本チームを組織する作業に着手した。チームにこだわらない、組織に組み込まれていない、未来を託せる若い選手たちを組織しよう!

●インターネットの力

インターネットによる選手募集の情報には、実に多くの方たちからの反応があった。選手自身からだけではなく、選手を取り巻く人達や、選手を終えた人たち、よく知っている人たち、全く知らない人たちから、思いがけないほど多くの意見や情報が送られてきたのだ。私にとって力になったことは「こんな選手がいるよ」といった種類の情報だけではなく、私の考え方に共感してくださり、その考え方をサポートし、励ましてくださるメール、私の一方的な視点を揺さぶるようなメール。考えさせられることの多い素晴らしいご意見をたくさん頂いたことだ。「私は一人ではない。たくさんの仲間がいるのだ!」と思うと、本当に嬉しく、元気が沸いてきた。私の回りは、にわかに慌ただしくなり、昼も、夜も、メールや電話での情報が飛び交った。ツール・ド・北海道で活躍した京都大学の小嶋選手にも声を掛けた。残念ながら彼は今年、選手をリタイアーして、今後は後輩の面倒を見るのだという。選手たちを選ぶに当たって考えたことは、当たり前のことなのだが、スピードの感覚と、レースに対する意欲。そして決ったのが、この若い5人の選手たちである。ステージレースの経験もほとんどない学生選手たちが、あの厳しいアイルランドのレースを最後まで走り切ることができるものだろうか?という人もいる。経験豊富な
走れる選手を核にして、そこに若い選手を配していく、という考え方もあった。これまでは、どちらかというとそういった考え方で編成作業を行ってきたものだ。しかし、ステージレースを走ったことのない選手達だからこそ、ラスを走ってもらおう。同じレベルの者たちが、競い合い、助け合って走ることのできる、言い訳なしの
普段着感覚で。何も知らない選手たちが、ネイティヴな環境に無条件に放り込まれることの強み。一つのチームで参加するのではないから、かえって日本風なやり方から解放され、思いがけない力が発揮できる面白さもある。もちろん学ぶことも多いはずだ。私は、この若い選手たちの可能性に賭けたいと思った。きっと全員が、何か自分の物を掴んで帰ってくることができると思っている。もしこれが成功すれば、ラスへの再挑戦の一歩が始まるのかもしれないなどと、思い始めているこの頃である。甘いかなあ...。

●エントリーリスト

・監督    山口 秀雄(埼玉県鳩山高校教諭)
・メカニック 市川 雅敏
・マッサー  アイルランドスタッフ
・選手
鈴木 太地(23歳・ミヤタ)
橋本  健 (23歳・Vitesse)
鈴木 謙一(20歳・法政大学)
辻  貴光(20歳・立命館大学)
清水 都貴(20歳・鹿屋体育大学)
どうでしょう。なかなかいいチームだと思いません?私はこのチームのことを、たいそう誇りに思っています。そして改めて、情報をお寄せくださった皆様へ、お礼を申し上げたいと思います。

●世界へ飛び出せ!

オーストラリアから  吉井功治
ポイントレース日本チャンピオン吉井選手からの、アイルランド遠征に対するメールです。正直いって現役の選手から、こんな素敵なメールをもらおうとは、思ってもみないことでした。日本の若い選手たちにも、是非読んでもらいたく、ご本人の了解を得て掲載しました。

以下(2)は、吉井功治さんからのメール転載です。