吉井 功治

日本鋪道レーシングの選手、吉井功治です。今年は「JOA Sugino」チームで活動します。12月の末からオーストラリアに来ており4月の末に帰国する予定です。今はニュージーランドにおり、先週出場したニュージーランドクリテリウム選手権では4位の成績でした。今週出場するポイントレースとスクラッチレースで優勝し、ニュージーランドチャンプの称号を手に入れるつもりです。

土屋さんのメールを読ませていただきました。そして、ちょっと残念に思いました。私は常に感じています。日本の自転車界の人間は「志が低すぎる」と。確かに、ツアーオブジャパンはミルクラスに比べるとUCIのカテゴリーも高いし、日本のスポンサー企業にとっては重要な大会かもしれません。でも、多くの海外のプロ選手が時差ボケでジロデイタリアの2軍チームといった構成をしてくるようなレースよりもミルクラスの方がずっとレベル高くハードなレースだということを、選手達は知っています。本気で世界を目指す気持ちがあるならば、「あえてミルクラスを選択する」というような選手やチームがあってもいいのじゃないかと感じます。

はっきり言えることで、誰でも知っていることですが「自転車競技は日本の競技ではなく、ヨーロッパの競技」です。日本に留まっていて、いいことなんて、ひとつもありません。若い選手がヨーロッパに行って、レベルの違いに打ちのめされることはあるかもしれません。でもそこで、何を感じ、学べるかによって、その選手の可能性が測れます。選手として最も大切なのは「感性」です。その感性を磨くのに一番役立つのは、レースに他なりません。私は22歳の時に自転車競技を始めるまでに、いろいろなスポーツに取り組んできましたし、自転車競技を始めてからも12カ国を訪れいろいろな人やレースを経験してきました。

それを通して言えることは「日本の自転車選手で世界に通用するような強い選手が現れてこないのは 個人個人の<志>の低さに起因する」ということです。身体的能力の差は欧米人と比べ、そんなに遜色ないと思います。正直言って、私は「黒人の参入していない自転車競技は、日本人にとってはすごく、チャンスのあるスポーツだ」と感じています。それなのに、勝負にならないのは、この国には「真剣で自転車競技に取り組み本気でこのスポーツで勝負してやる」という気概を持った選手ならびに指導者がいないからです。

3年前に私は(弱小でDevision-3のチームでしたが)日本鋪道Bessonというプロチームでフランスで活動しました。そのチームにはいろいろなタイプの選手がいたのですが特に印象的だったのはセルゲイヤコブレフというカザフスタン人の選手です。彼は、顔はベビーフェイスなのですが、まさにハングリーで、練習でもレースでも「俺はもっと強くなってやる、のしあがってやる」という雰囲気まるだしの選手でした。他のフランス人の選手がプロのチームに所属できたことを喜んでいるのとは対照的に「俺はこんな弱いチームとは来年は契約しない。成績を出してもっと強いチームに移籍するんだ」と常に語っていました。暇な時間を見つけては、エリートプロのチームに手紙を書き(8月末の段階で200通近く送ったと言っていました)カザフの強い選手とコンタクトを取り「監督にチームに入れてもらえるよう頼んでくれ」と電話をしていました。

結局、彼は、次の年もこのチームに留まったのですが去年はDevision-2のイタリアチームに移籍しジロデイタリアで完走し、今年はドイツテレコムで走っています。他のすべてのフランス選手や日本人選手が2年前のチーム解散とともにアマチュア選手に戻ったのとは対照的です。カザフスタンはご存じのとおり、アジアでは最強です。でも、彼の話では、20歳を過ぎて自転車競技を続けている人間はほんとにわずかで、「カザフスタン選手権なんて、50人しか参加しない」とのことでした。それこそ、限られたエリートだけが続けているだけで、いわゆる「層の厚さ」なんて、ヨーロッパの強国に比べたら、桁違いに寂しいものです。それでも、彼らが世界の自転車界で活躍しているのは「なんとしても自転車競技で食っていくんだ。国に帰ってもまともな仕事なんかないから」という気持ちで戦っているからです。

そういった、彼の姿をみてから、私は自分が「ぬるまゆの日本に浸かっていては、決して、強い選手になれることはない」と感じ、自分の姿勢を改め、行動するよう、心掛けています。今では、世界中のオーガナイザー(トラックレース)へ英語でメールを出し「大会に出場させてくれ」とアピールしています。ピスト競技に理解を示すようなスポンサー企業を探すのは正直、難しく今回も自費でこっちに来ました。少しでも、費用を浮かすため、全て、ホームステイさせてもらって生活しています。

昨年オーストラリア選手権で優勝できたこともあり、今年の遠征は色々な面でやりやすいのですが、単独でのレース活動は何かと、大変なことも多くあります。それでも、こういった経験を通して、今の自分に一番必要な「選手としての<逞しさ>、そして人間としての<厚み>に少しでも磨きがかかればと思って、行動しています。ロード競技のようにチームで動かなければならないといけないのとは違い、私の競技=ポイントレースは、まったくの個人競技であるという理由から「自分の意志さえしっかりしていれば、道は開ける」という利点があります。身軽なぶん、なんでもできます。

私はこのような気持ちで、今、遠征を行っていますが、ぜひ、ミルクラスに挑戦したいという選手が現れることを期待しています。「ツールド北海道でまったく歯がたたなかったアイルランドのマッキャンが 世界選では、他国の選手にまったく通用しなかった」ということについて、少しでもまともな感性を持った選手が日本にいればヨーロッパでのレースを選択するというようなこともあるのでしょうが・・・。

土屋さんのような人間がいるというのは、日本の自転車界にとってはものすごく貴重です。でも、土屋さんがやっていること、やろうとしていることを理解している人がいる(残念ながら、地球の裏側に多くいるようですが・・・)ということを認識して、がんばってください。