『故郷も何もかも投げ出して、
     海の向こうの北海道に行こう』

  雪は降らない蜜柑(ミカン)はたわわになる四国から、半年は氷に覆われるしばれの大地を開拓しよう。そう決心して僕らの祖父たちは、十勝に入植してきた。

 道の駅を利用し自動車で、僕はルーツを求める旅に出た。徳島県三加茂町が祖父の故郷で、有志を集め北海道に渡る決意をした。その吉野川のほとりに立って浮上したのは、僕ならここから出たろうかという疑問。

 先人が北海道を目指した情熱を想起するのは、思いのほか難しい。道産子の祖先は開拓の意志に燃えていたが、翻って子孫の僕たちはここがどこなのか真剣に考えてはいない。

 未開の土地で自立を図るという悲壮な決意は、いつしか風化して誰も覚えてはいない。津軽海峡を越え祖父の生地で確認したのは、開拓の心を記憶していないという事実だ。


 ただ確認できたこともある。北海道には素晴らしい野生が、まだ息づいている事実を。目をつむって北の大地をイメージすると、あの広大な景色が頭のスクリーンいっぱいに広がる。比類無き美しさは宝物に値する。


 じいちゃん、よく北海道に行ったな。本当の夢を自分の意志で開拓して良かったな。僕らはこれから志を受け継いで、何をするべきなのかな。僕も自分の開拓をしよう。


※北海道新聞 『朝の食卓』 に寄稿