村松 弘康

  「結」(ユイ)
 2004年2月28日,北海道会の会長をしているNPO法人トムネット(町づくりネットワーク)の中に,北海道活性化センター「TACTICS」を結成し,「フロンティアカレッジ」第一期を開塾した。カレッジは,企業経営者が中心となり26名で発足。京セラ稲盛会長が顧問を務めるシンクタンク「日本政策フロンティア」の小田全宏代表を塾頭に迎え,毎月1回土曜日,人間と経営の原点回帰の勉学に励むこととなった。塾頭講義は,人間教育が主で,人間の盲点への気づきに主眼をおいている。特別講義も刺激的である。「できない子供はいない」と説いた池上学院理事長池上公介氏,「再建に依存,甘えは無用」とJR北海道代表取締役小池明夫氏,「もあい(模合),ゆい(結)がこれからのコミュニティの形」と札幌大学教授佐藤郁夫氏,「選択の幅は狭い」「資本主義経済の副交感神経(自制と創造と思いやり)を取りもどす必要がある」と北大教授濱田康行氏,「エソジンと合成ゴムの新結合が自動車というイノベーションをおこした」と北大客員教授ソニー統括部長の田村新吾氏,各氏の講義に,強い刺激を受けた。2005年には,ラルズの横山清社長,ニトリの似鳥昭雄社長各氏の特別講義も予定されている。
 カレッジの塾生は,北海道経済を活性化するために,「やるぞ北海道」のラベルを名刺に貼る運動を起こそうとしている。何をやるのか?北海道の絶品,絶景を捜し出し,職人の表彰制度「北海道マイスター制度」を発足させる。ホンモノの人とモノが表舞台に登場し,北海道に匠の世界を復権し,世界に発信すると意気込んでいる。
 2005年「TACTICS」の目標の第一は,横断的なネットワークの構築である。道内に点在するホンモノの人とモノの「新結合」をおこし,イノベーションにつなげたい。「租庸調」の精神で資金と人と技術を結合し,起業に火をつける仕組みも具体化したい。
 第2は,情報格差の解消である。とりわけ,弁護士,会計士,司法書士,社労士,行政書士のほか,経営コンサルタント,ファンドが一体となって中小企業経営者に経営のセカンドオピニオンを提供し,中小企業の足腰を強くすることに貢献したい。北海道は世界一の宝の山になりうると信じる力を沖縄の「モアイ」「ユイ」の思想で形にしたい。


 この地上に生を受けたことには,それ自体が祝福であり,誰もが幸せになる権利が与えられている。日本国憲法は,個人が多様なままに幸福を追求して生きる権利を,神聖不可侵な人間の尊厳として高らかに宣言している。幸せの反対物は,殺し合うことであり,環境の破壊である。一人一人の人間が,流されず,「自ら然る」生き方を貫くことが今こそ大事になっている。
 戦後の日本は,自分のしたいことを追求することをわがままとして排斥し,「私見を捨て,我望を滅して,組織の利益と仲間の人気を追求し」「有利に生きようとして,自分の好みを抑えることを是としてきた。」。しかし,「有利さは人間を幸せにするとは限らない。より多くの物財(つまりお金)を得,権力と部下を得ることにはなっても,満足と快適さが得られるとは限らないのだ」と指摘する意見がある(堺屋太一「わがままのすすめ」)。「有利」より「好き」を選ぶ。「協調」「人気」よりも「正論」を選ぶ勇気を持つことによって,はじめて流されない,自立した自己であり続けることができる。「日本という国は,あまりにも一つの価値基準を全員で共有しようとしすぎます。みんなが海を見たら自分も海を見ないと大変なことになる。しかし,みんなが海を見ているときに,何人が山を見ている人がいたほうがいいんです。そうすれば暴走をくい止めることができます」(名嘉睦念,版画家,沖縄在住)。