村松 弘康

  感
 自立し,他と異なる特質をもった人間であって,はじめて「人材」たりうる。かかる「人材」には頼るべき組織も会社もないが,自由である。自由な人材だからこそ異質な人材との出会いの機会も増える。ソニーの田村新吾氏から,同質間ではイノベーションはおきない。異質な人材,技術,経験であってはじめて新結合がおこる。新結合をおこしやすい人材は,豊かな感性と,豊富な体験をもつ,天衣無縫の性格の持ち主であると教えられた。
 田村氏は橋本保雄氏の言葉を引用しつつ,「感混創才」の新解釈を主張する。「感」とは、感性を磨け,「混」とは、異種と混交せよ。「創」とは、まず試し、試行錯誤を恐れるな。「才」とは,自分の足りないところを知る才覚。要するに知ったかぶりせず,謙虚に学び努力せよ。こういった人材こそが,21世紀のイノベーションの主役になる。
 幸せに量的な限界はない。ボクネンも「幸せは減りません」と言っている。もっと幸せになるために感混創才をみがきたい。


 吉本ばななの「海のふた」という小説にこんな一節がある。
 「こんなに多くの何かを失って,得るべきものは何かあったのか?・・・誰もいなくなった淋しい海底で,私は水中眼鏡をしたまま,息を止めたまま,泣きそうになった。・・・でもざばっと上がって,真っ青な空と山の眼差しを強く感じたとき,『いいか。とにかく続けよう。』と閑かに澄んだ気持で思ったのだ。」
 「数年前まで,あの松林のところにかき氷屋はなかった。そして,このぬいぐるみも,少し前まではこの世になかったもので,私の頭の中だけに生きていた生き物だ。でも,今は,実在している・・・これは,もしかしたら,すごいことなのかもしれない。
 私は思った。
 意図して,誇り高く,地味な努力をして,あれこれ頭を使って工夫をしたら,実現するのだ。
 この世に,これまで影も形もなかった何かを出現させて,それを続けることができるのだ。
 私たちは人間だから,すごい力を持っているのだ。誰かがかき消そうとしても,無理やりに均されそうになっても,どんなに押さえつけられても絶対になくならない,そういう力を。」
 人生は思ったとおりの形をとる。「そうなりたいと思ったから,そうなった」という結果になるのだ(龍村仁)。イメージが白黒からあざやかな天然色に変化するまで思いをねり、きたえる力が変化を起こす。