マジックスパイス
オーナー 下村泰二

「旅、アジア、医食同源そしてNYへ」

 だいたい海外に旅行する時には、行ったその国々で効率的に動けるようにと事前にあれこれ細かに情報収集してから出発するのが普通なんですが、今回のNY行きに関しては、現地に娘が居るということもあって全く予備知識なしで旅立ちました。ありのままのNYを混じりっ気なしでダイレクトに感じてみたい…そんな思いもありました。
 ところがNYは数十年ぶりという猛烈な寒波だったんですよ。凍りついたNYの空港に降り立った時はそのまま札幌に引き返そうか、と思ったくらいです。道産子の私にですら相当に厳しい寒さでした。
 今までアメリカには4回ほど旅しているんですが、いつもウエストコーストやハワイでしたから東海岸には初めてだったんです。明るい太陽が燦々としていて、陽気で全てが乾燥気味の西海岸とはずいぶん雰囲気が違うもんだなあ…というのが第一印象。  それもその筈、初めてのNYというのにニューヨーカーでも怯む寒さの真っ只中、その信じられないくらいの低温が身にこたえて、正直あまり良いとは言えないNYのイメージでしたね。
 我々の少年時代にはアメリカへの憧れや崇拝みたいなものがあって、その情報を何処から仕入れたかといえばTVのアメリカンホームドラマとか、少年雑誌などでした。良きにつけ悪しきにつけライフスタイルやファッション、音楽などを盛んに吸収したものです。
一から十までどんなことでもアメリカを見習え…ってね。
 ハッピーずくめの当時のアメリカンTVドラマや何度か訪れた西海岸のイメージでは、アメリカという国はソフトもハードも新陳代謝が旺盛な処で常に世界の最先端を走って、新しい物や文化を創り出す超大国…そんな風に私は捉えていましたが、初めてのNYではかなり違った印象を受けたんです。
 「ちょっと待てよ…NYは違ってる。何もかもが使い捨て、という訳じゃあないぞ…」って。
 レストランやブティックの家具や証明器具などのインテリア、そしてその建物自体がよくよく眺めてみると随分と古風なんです。マンハッタンの街を歩いていてもあちらこちらにクラッシックで重厚な建物が目立つんです。
 少しショックでした。旅をしていて久々に感じたカルチャーショック…例えば有名なメトロポリタン美術館、ニューヨーク自然史博物館、MAMO、ジョンレノンが住んでいたダコタハウス…多分、戦前の建物そのままに残っていて今も健在なんですよね。
 「あのアメリカが…あのニューヨークがこんなにもトラディショナルだなんて…」
 NYはすっかり新しくなったり、部分的にリニューアルしているところも当然あるんだけれど、古いモノをしっかりと大切に使っている…今までの自分のアメリカに対する印象が大きく変わってしまいました。
 それと、ロンドン、パリなどの都市と並んでNYはファッションや音楽文化の情報発信の面でも最先端、メッカと呼ばれています。しかも三都市共通してその街中には超スケールの巨大な美術館、博物館が建っていて絢爛豪華、眩いばかりの超国宝級の美術、骨董品が呆れるほどの点数と規模で我々を圧倒していますよね。  ただ、今現在で言えばNYと他の2都市とでは圧倒的に「勢い」に差があるように見えるんです。国家自体が持っている流通や経済力のパワーが、街の表情にもはっきりと現われてるんですよね。国家のパワーと政治の安定度…それが様々な(芸術)活動にも当然影響するんでしょう。
 豊かで安定した環境力があって、初めてその上で自由気ままな人間の創作活動がある。奔放で躍動感のあるNYのアートパワーはそうした背景がベースになっているんじゃないでしょうか。現在アメリカは第2次大戦後空前といわれる好景気を迎えていますが、その経済力がバックボーンにある…日本が江戸3百年間で浮世絵などの絢爛豪華な芸術が花開いたように…そんな気がしました。
 NYの空港に降り立って、マンハッタンに足を踏み入れた瞬間に私の感じた圧力、眩暈は「アートパワー」だったんです。街全体から発散しているエネルギー…それはNY、マンハッタンを覆うアートのオーラだったのかもしれません。


つづく