北原 理作

《エゾシカにおける管理型猟区早期創設への期待》

 ハンターが鳥獣保護員を兼任している場合がありますが、まず鳥獣保護員の役割自体曖昧であり見直すべきです。鳥獣保護に徹するなら獣医や希少動物の学識経験者などが保護員を担い、被害をおよぼし個体数管理が必要なエゾシカなどの場合、保護管理官が必要だと思います。

 保護管理官は少なくともデータの収集や解析が出来ないといけません。生息状況や被害状況など保護管理計画に必要な客観的なデータを提示し、住民などの同意のもとに計画を遂行することが必要です。保護管理官が銃で捕獲しても構わないと思いますが、一人で全ての任務をこなすことは不可能でしょうから、ハンターと連携して行動することが求められます。一人の保護管理官が担当できるエリアは限界があるでしょう。ですから地域個体群単位で保護管理官の配置が必要でしょう。そのかわり、担当エリア内における責任はきちんと果たすべきです。

  計画の策定には、他地域との連携が必要な場合も多いでしょう。北海道全体の生息動向も念頭に入れる必要があります。担当エリア内のエゾシカが、担当エリアから遠く離れた場所で越冬し、往来することもあります。ですが一つの担当エリアには、越冬地、中継地、出産育児の場所の全てを含むことが理想です。

  ハンターの役割も趣味の延長ではなく、保護管理業務を遂行する一員として臨時職員のような形で雇用すべきです。優秀なハンターであれば少数でも構わないと思います。当然捕獲個体は放置せず、要望があれば肉などを資源として有効利用していいでしょう。被害が少ない地域では、持続的狩猟の保障とエゾシカの資源的価値を念頭に入れて、被害が急増しない範囲内で生息数の目標水準を引き上げることも可能です。

   前述の担当エリアは、いいかえれば管理猟区です。管理猟区では、現状の猟区における狩猟規制(性別ごとに狩猟可能な場所、期間、1人1日当たりの捕獲数などが設定されている)と違い、エリア内で駆除や狩猟を行えるハンターを限定することと総捕獲頭数を性別ごとに規制する必要があります。

  現行の規制では、例えば一猟期に道内外のハンター約1万人がエゾシカ猟に登録したとすれば、猟期3ヶ月(約90日)、1人1日当たりの捕獲上限3頭と設定されているため、最大約270万頭の捕獲を許可していることになり、誤差を考慮しても推定生息数(20万頭以下)をはるかに上回っています。実際は、保護区が存在したり、ほとんど猟に行かないハンターがいるので、すぐ絶滅してしまう心配はありませんが、鳥獣保護区でも許可さえあれば駆除が可能です。

  保護管理に非協力的なハンターや狩猟経験が少ないハンターは、管理猟区では捕獲出来ないことになります。ですが突然北海道全体が管理猟区になることはありえないので、狩猟という趣味が奪われるものではありません。まずはモデル地区から始め、徐々に拡大するのがいいかと思います。高齢ハンターが引退してハンターが減少しても、少数精鋭で機能するなら問題ないでしょう。

  ハンター減少を懸念して、ハンターをもっと増やそうという発想をする方がおりますが、私は数より質の向上が優先課題だと思います。適切な法の整備や管理猟区のような制度の構築をすれば、密猟も減少し、ハンターの社会的役割はより重要になるはずで、自ずと若い世代の参加も増えると思います。

  最初のモデル地区創設の適地は、調査データの蓄積、生息密度、被害の程度などを考慮すると阿寒湖周辺部になるのではないでしょうか?野生生物の保護管理は、欧米では一般的です。客観性が重要であり科学的データが不可欠なデジタル管理です。一方、日本では農耕文化のため馴染みが薄いですが、アイヌやマタギのように狩猟採集の文化も現存しています。先祖から代々受け継がれてきた貴重な自然(猟場、生息地)と経験や捕獲技術は大変貴重なものです。

  このような文化は、デジタル管理のような客観性にはやや欠ける点もあるかもしれませんが、例えアナログ管理でもこれまで獲物を絶滅させてこなかったのですから成功例と言えるでしょう。科学的なデータを集める際も、経験豊富な方が失敗も少ないはずです。よってアイヌやマタギに一部のエリアの保護管理を委託することもいいのではないでしょうか。

 全体を一律に管理する計画は、地域特性が十分反映されず、柔軟かつ迅速な対応が出来なくなりリスクを増大させます。データの精度にも限界が生じます。行政にとっては、効率が良いかもしれませんが、少なくとも野生生物にとっては地域個体群レベルの保護管理の方が望ましいのではないでしょうか。


* エゾシカ保護管理計画に対する要望などは、社団法人北海道自然保護協会の会報、会誌にも掲載しておりますので、興味がある方は事務局へお問い合わせ下さい。

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