佐々木 亜弓

− バイオダイナミック農法とは −

 よく耳にする有機農法や有機農産物の `有機′という言葉についてじっくり考えてみたいと思います。有機とはもちろん、炭素化合物であるということには違いないのですが、通常、有機農法というと、一般市民に限らず農家の方々も、無機化学肥料を使わずに有機化合物肥料を使う農法を指していう場合がほとんどだと思います。ですが、ここで掘り下げてみると、もともと有機的とは「多くの部分が集まって、互いにつながりを持ち、それが全体を形づくり、よく統一がとれているさま」(講談社、国語辞典)とあります。有機の機は機織りの `機′と同じ字でもあり、自然界そのもののしくみを表した言葉であるともいえます。
 このように別の角度からみた結果、有機農業とは肥料が有機であるということだけでなく、熱、光、空気、水、土、土中の微生物や窒素、酸素、炭素その他多くの元素が互いにつながりをもって生命をつくり出していくことを人間が促す(または人間が邪魔をしない)、いわば本当の意味での自然農業のことではないかと思うようになりました。
 そう思いあたった時、どうしても宇宙に目を向けざるを得なくなりました。というのも、日の光だけを考えても地球外からやって来るものだからです。昔の人たちは太陽や月や星々を見ながら農業をしていたといいます。地球上の生命が宇宙からどのような力を受け取るかをきっと体で感じていたはずです。昔の人たちの方が、私たちより遙に敏感に宇宙のリズム−自然のリズムに感応していたはずです。
 実は、2年程前にルドルフ・シュタイナ−(旧オ−ストリア帝国、1861−1925)のバイオダイナミック農法に出会いました。バイオとは生命、ダイナミックは`力学の′という意味ですから`生命力学農法′と呼んでもいいかと思います。シュタイナ−は秀でた哲学者で、日本では特に教育や芸術面で知られています。
 シュタイナ−は地球を取り巻く宇宙環境がどう地球に影響しているかを説き、また農業という枠の中でその知識をどう活用すべきかを具体的に示した人でもありました。彼は太陽系のそれぞれの惑星と、その背景にある12星座の位置関係により、どのような異なるエネルギ−がどのようなタイミングで地球上の生命体に降り注ぐかを知っていました。また、それぞれの惑星からのエネルギ−を受けて作用する農地用調合剤も数種類打ち出していますが、これにより農地がバランスのとれた独立有機生命体になるというものです。鉱物、植物、動物、大地もどのように宇宙からの影響を受け、バランスをとりあって活動しているかを説く、実践理論であるこのバイオダイナミックスこそ本物の自然農法、有機農法であると私は思います。(昨年の5月にイザラ書房から「ルドルフ・シュタイナ− 農業講座」が出版されましたので 是非お読みください。)
 なぜ、本物の有機農業が必要かという話しになりますが、シュタイナ−の言葉を引用したいと思います。ある人物がシュタイナ−に「なぜ崇高な精神性が行動という形で実を結ばないのか?」 という質問をしたところ、シュタイナ−は「これは栄養の問題です。今日の食物中の栄養は精神性を具体的に形、行動にしていくために必要な力を提供してくれません。考えを意志、行動へとつなぐ橋がかからないのです。人々にとって必要なそのような力が食物にはもはや備わっていないのです。」と答えました。
 でも、考えてもみてください。これは1920年代に彼が言った言葉なのです。1920年代でもそうですから、21世紀に入った現在は目もあてられない状況です。道理でキレる子供たちも出てくるはずです。
 バイオダイナミックスを科学的に論証することはまだ出来ませんが、シュタイナ−の死後75年の間に西欧を中心に、彼の農業理論が正しかったことが十分に実践的に立証されてきました。現在は米国、オ−ストラリア、インドなどヨ−ロッパ以外でも世界各地に定着しつつある農法となっています。海外ではバイオダイナミック農業は有機農業の最高峰であり、バイオダイナミック農産物は通常の有機農産物よりも高いランク付けをされており、高品質かつ高い生命力をもっているとして知られています。
 日本では九州の阿蘇で`ぽっこわぱ農園′が以前からバイオダイナミック農業を営み、また、農事暦も出している他、去年、北海道の伊達市では`リムナタラ農場′で1つのグル−プも活動し始めました。また、今年から北海道、岩見沢市の`狩野自然農園′でもバイオダイナミック農法を取り入れ始めました。
 世界中の疲弊し切っている大地を蘇らせ、環境を浄化し、そして疲れ切っている人々に癒しと活力を与えるために1日もはやくシュタイナ−の有機農業が普及するように願います。
※イラスト:小川幸辰 氏