竹岡 雅史

特集・南東アラスカクリンギット族の人々を迎えて
1.札幌公演のご案内
2.公演の趣旨(代表:赤阪友昭)
3.神話の夜明け(竹岡雅史)
4.全国の公演予定
5.札幌公演を終えて1,苦労と感動(竹岡雅史)
6.札幌公演を終えて2,新たなる難問(竹岡雅史)


 −苦労と感動−

「クリンギットの人たちを迎えて」
 結論から言うと、ゾクゾクするほど素晴らしかった。
 アイヌの若者たちも、クリンギットの人達も、感動的なセレモニ−を見せてくれた。
 スタッフにみなさんも、本当にくじけないでよくやってくれた。

 それでは最初の経緯から話をしよう。
 確か昨年(2000年)の夏の終わるころ、赤阪友昭君から話を持ちかけられた。近いうちにボブ・サムが、クリンギット族を何人か引き連れて、北海道にやって来ることを。僕はボブ達が気楽に遊びにくると解釈したので、気軽な気持ちで温泉にでもつれてって、北海道観光の案内でもすればいい、そう思っていた。
 ところがトンでもない、彼らはアイヌと会って互いの踊りや音楽とか神話を交感する、民族的なセレモニ−を北海道の人達を集めて、大々的に行いたいというのだ。
 「ちょっと待ってよ赤阪君、それってイベントっていうかコンサ−トみたいなもの?」「そう、彼らに語り継がれてきた神話の内容から、北海道に凄く興味を持っているんだ。特にボブが北海道に来てからは、その思いはますます強くなって、僕が連れてくるからどうか協力してよ」 協力するもなにも、どうしたらいいのか皆目見当が付かない。そもそもアイヌの文化の中に、彼等クリンギットの人を迎える要素があるのか。はたまたユーカラの中に、クリンギットの人達と同じような話があるのか。分からないことはいっぱい有るけど、手掛かりになるヒントは何もなかった。2000年12月4日に来るというと、あと3ヵ月のみ。

 話を整理してみよう。
 まずボブ・サムとは誰なのか。彼は何年か前に上映された映画の出演者で、アラスカに在住する先住民族・クリンギットの人だ。「地球交響曲」という音楽会と誤解されそうな映画のなかで、星野道夫さんのソウル・メイトとして渡りガラスの神話を語っていた人。 その映画の内容とか星野さんの話をすると長くなるので、とにかくボブ・サムだけに焦点を当てて話をしよう。彼が出ている映画が札幌で上映されてから次の年、今から2年前に北海道に来たことがあった。
 その時もてんやわんやが起きた。つまり彼が行くから何とか頼む、そう龍村監督に彼の接待を任された僕は、一時途方に暮れたことがある。 もちろん龍村監督とは「地球交響曲」の映画を作った人で、僕とどのような関係があったのか説明は省くが、とにかく監督は一方的に「北海道にボブを送るからあとは頼む」そういった。ボブは渡りガラスのクラン(血族)だから、それに見合ったシャ−マニズの様なことをやるらしく、何も知らない北海道の人が理解できるような、印象深い催しも期待しているからよろしく。どうしよう、頭のなかにカラスが飛んでしまった。
 ま、あれこれ考えて悩む性格でもないから、どうにかなるさとタカをくくって、とあるエスニック料理屋さんにふらっと寄った。するとそこで変わった音楽というか、さまざまな楽器を次から次と鳴らすコンサ−トのようなモノをやっていた。ビ−ルを飲んで、カレ−を食べながら、その音色を聞いていると、ふと思いつくことがあった。
 この音楽というか、風変わりな民族楽器に連続演奏を、ボブと掛け合わせるとそれらしい雰囲気が出せるかもしれない。その演奏は多種多様な楽器に風が吹くような、水が流れていくような不思議な魅力があった。いわゆる即興で次々と楽器を鳴らすんだが、楽器と楽器が微妙に呼応し会って、自然の中に入って音を出しているような気がしてくる。
 思い立ったらすぐ、その演奏者に頼み込んだ。彼の名前は奈良裕之さん、釧路在住のミュ−ジシャンだった。説明するには込み入った話を何とかまとめてすると、スンナリいいですよという返事をくれた。よし、音楽はこれで決まった。あとは映画でボブが出演しているパ−トをプロジェクタ−で上映し、龍村監督に講演をしてもらう。
 しかし肝心のボブは何をやるのか、祈りを捧げて終わりだったら、観客は怒るどころかガッカリして帰るだろう。安くはないお金を払って来る以上、満足と感動くらいは持って帰って欲しい。ま、これもあれこれ悩んでもしょうがないから、あとはぶっつけ本番で行くしかないと腹をくくった。
 そして当日が来ると、ボブを千歳空港まで迎えに行き、札幌へ連れてくる車中で彼と話をした。ところが彼は無口な人で、今夜行うイベントの予定を話しても、イェス、イェスを繰り返すだけ。おいおい、今日の主人公はあんたなんだぜ、そう思って彼を睨んでもニコニコしているだけ。Don’t  worry  be  happyってか−。
 ところが本番になるとボブは変身した。精霊が乗り移ったように声は朗々と響きわたって会場を揺るがし、奈良さんの奏でる楽器のなかにもしみ込んで、祈りの声と漂う音楽が絡み合って神話の世界を見せてくれた。 言葉の壁を越えて意味が伝わり、背中をゾクゾクする何かが駆け抜ける。お客さんの方を見ると、やはり感動が伝わっている。ボブ、あんたは最高の役者だぜ、そう思えた。                 次項に続く