北原 理作

1 はじめに
 日本は、大陸に近く多様な気候や地形が存在する島国である。野生生物の生息地として重要な、様々な植生タイプからなる森林帯、湿地、干潟、珊瑚礁、草原、藻場、湖沼が多く存在し、生物の多様性は高い。
 しかし、森林伐採をはじめとする様々な開発行為などにより、野生生物の生息地の分断、縮小、消失が生じ、絶滅の危機に瀕する種が増加している。一方、自然豊かな農村地帯や観光地においても、農林水産業に悪影響を及ぼす野生鳥獣による食害問題が深刻化している。これら有害鳥獣といわれる動物には、個体数が増加している種もある。また、餌付けによる食性、生態の変化も問題である。さらに、ペットとして、もしくは産業用や天敵として、多くの生物が世界各国から輸入され、その後野生化したものが在来種を駆遂し始めている。
 これらのことから、日本の野生生物の特徴および現状は、種の減少と多様性の低下、人間活動との摩擦の増大、移入種の増加に主として集約される。北海道を例に挙げれば、シマフクロウ・タンチョウ・ヒグマ・ナキウサギ・イトウ・オオワシ・オジロワシ・エトピリカなど絶滅の危険性がある種(重点的に保護対策が必要なもの)、エゾシカ・キタキツネ・ヒグマ・トド・カラスなどの有害鳥獣(保護と管理双方が必要なもの)、アライグマ・ギンギツネなどの移入種(輸入や飼育に対する規制や捕獲が急務なもの)などに大別される。
 個人的にエゾシカの保護管理に関心を抱き、特に被害対策や生息地の保全管理分野を中心に1993年から取り組んできたので、エゾシカの例を挙げ保護管理について言及したいと思う。
2 エゾシカの保護管理状況と課題
 鳥獣保護法改正に伴い、各地で特定鳥獣保護管理計画の策定を急いでおられる中で、先駆的に始動した「道東地域エゾシカ保護管理計画」は、北海道環境科学研究センターを中心とした基礎研究の積み重ねと各市町村および猟友会のサポート体制が上手く連携した結果、策定、施行されているものと言える。特に、北海道の産業構造の中核は、農林水産業、観光業、公共事業であり、エゾシカという動物は、アイヌ民族にとっても、現在の道民、観光客にとっても重要な存在であることに加え、深刻な農林業被害が後押しして、住民および行政側の理解も得やすかったことが、短期間で体制作りが進んだ理由と言えるだろう。
 以下エゾシカの保護管理の現状を踏まえ、課題を述べる。
・ 鉛弾の問題
 この点については、マスコミによる情報公開やNGOが盛んに使用禁止を行政側に訴えた為、使用禁止の方向へ進む予定である。今後銅弾への切替が進むものと思われるが、引き続き違反取締、監視体制の充実が求められる。また、ライフル弾のみならず、散弾も含む全ての鉛弾が、全ての猟場において一刻も早く使用禁止になることを望む。
次項に続く