竹岡 雅史

 家族で旅行するのにもいろいろあるけど、海外旅行ならちょっとした勇気が必要だった。今から20年前は、赤ん坊の布オムツを背負ってグアムに遊びに行くのさえ大変だった。海外渡航用の必要事項もわからずに、とにかく飛行機代金を払えさえすれば何とかなるだろうと、たかをくくって旅行社に行ってツア−を申し込み、その後で北海道庁に行った。
 ツア−を申し込んでからパスポ−トを取りにいくズレから開始し、子供を背負って千歳空港で出発を待つまでが大変なんだ。でも2月始めの寒い北海道から南国の島へ一気に飛ぶ、これは凄い快感と満足感を与えてくれる。水道の凍結を心配した朝の札幌から一気に、椰子の木と青い海を眺めて汗をかく爽快さ。マラソンの後でサウナに入り、渇いたのどに生ビ−ルを一気に流す快感よりもさわやかだ。意識が変容する危ない気持ち、それが味わえるから旅行は面白い。かなり混乱した人生に息抜きを与えてくれ、妖しい解放感が頼り無いけど心地よい。「人生いろいろあるさ」とひとこと言い放つカッコよさがある。

 椰子の樹と青い渚には涙が出そうになったけど、ひたすら感激するだけの海外旅行も直物足りなくなる。人間の感性は不思議なもので、何時も必ず刺激を求める方向へ向かう。より強い刺激を求めて旅行をしても、何時か必ず物足りなくなってしまう。旅行を通じて 求めるテ−マ−がないと、旅先でも退屈するようになるのだ。人生の途中で何となく感じ てた、一種の軽い倦怠感が訪れる瞬間に近い。将来的な展望をハッキリさせずに、ひたすら脱出する時期が終わることもある。行く先をどことも決めていなかったし、何処へ行き たいという希望もあえてはなかった。サイコロのような気持ちで選んだところが、オ−ストラリアの西部の「パ−ス」と言う所なんだ。人口は100万人で風光明媚、物価は低くて気温は快適な常春で、何よりも安全で面白そうな感じだった。何が面白そうだったかというと、「パ−ス」という名前の都市を全く知らなかったこと、とてつもなく距離的に遠いことだった。日本からできるだけ遠く離れたかった気持ちから、その場所はおあつらえ向きの逃避場所だった、そんな気がして未知なる場所として「パ−ス」に決めた。