竹岡 雅史

滝を下る
 一ミリの千分の一はミクロンでその線分の一はオングストロ−ムで、千倍はメ−トルでその千倍はキロメ−トルだ。例えば高さが300メ−トルの東京タワ−に登って周囲を見渡せるのは数十キロの範囲で、その時に手元の小さいモノを観るならせいぜい数ミリが限界だろう。ミリからキロまでが肉眼で観察できる限界で、それ以下とかそれ以上を観るには顕微鏡や望遠鏡が必要になる。観察する対象物に光が当たって反射した像を拡大するわけだが、観察すべきものがあまりにも小さすぎたり大きすぎると(遠方過ぎると)、光の影響を受けたり光が届かなかったりする。
 原子や電子とか素粒子のレベルでは光を照射する刺激だけで、その物の性質が変化して強い影響を受けてしまう。宇宙の遠方の星はあまりにも遠すぎるので、光の速さを距離に置き換える。光は秒速で30万キロメ−タ−移動するので、一年間では9兆4670億キロメタ−の速度で進む。十光年離れていると94兆6700億キロはなれていることになり、光が何年で目的地に到達するかで距離を推測するわけで、空間と時間の関係が一つの単位に統一される。地球から太陽までの距離は1億4950万キロで光は約9分で到達する。銀河系の大きさは10万光年の直径で広がっていながら、銀河そのものも宇宙の中心から時速320万キロメ−タ−で遠ざかっているという。              

 宇宙には銀河が何千億もあって、何にもない空間がその何倍も何十倍も分からないくらいある。そのなかにポッカリと浮かんでいるのが地球で、何のために宇宙があるのかと考える人間が生きている。あたかもそのことを考えることが使命であるかのように生きている。そこで問題になるのが「思考」という名を与えられている意識という現象で、明らかに脳の内部から沸き上がってくるモノがある。モノとは認識されずに精神現象と呼ばれているが、脳という名の器官がなければ明確に確認されない。本人以外は確認できない現象だが、明らかに誰もが意識を持って生活していると信じられている。
 最小で究極の物質の単位である素粒子は、その意識の発するエネルギ−を関知するらしい。光の影響で性質を変化させる素粒子は意識によっても刺激を受け、それを観察する人の意識によってコントロ−ルされるというのだ。意識は素粒子レベルに影響を及ぼし、人間の身体も脳も突き詰めると素粒子からできているという事実がある。人間の身体は血管とか心臓や胃腸という臓器と、骨格と筋肉等の構造構成要素からなっているが、総ての単位は細胞に還元される。その細胞を構成するのは主としてタンパク質だが、遺伝子を含めた細胞単位もまた原子から組み立てられている。
 突き詰めていくと素粒子の存在に到達し、あらゆる生命現象もそれから発生する運動エネルギ−のことだと理解ってきた。人間・生命現象・あらゆる物質を構成する要素である素粒子は、明らかに意識の影響を受けて反応するいうことも。すると言葉の意味が話し相手に伝達されると、意味の持つ影響力が相手の意識の源に到達することも分かってくる。たった一つの言葉の意味が相手に理解されるやいなや、ホルモン分泌器官や汗腺の働きを促進してドキドキしたり汗ばんだりさせる。ひと言で赤面したことがない人はいないだろう。言葉が力を持つということは、意識も強力なパワ−を持っているということなのだ。
 歴史的な事件が持つインパクトもやはり強力な印象を人々に与え、年代によって記憶している数々の象徴的な記憶を意識に植えつけてきた。日常的には事故とか病気とか環境の変化によって人生の節目を感じたり、人格を構成してきた脳のなかのネットワ−クの組み替えが起きる。そもそも脳の内部現象である意識を作っているのは自分なのか、ひょっとすると社会といわれている世論なのかマスコミなのか。意識が素粒子レベルに影響をもたらすなら、コンピュ−タの常識が人間世界を支配することも可能になる。
 コンピュ−タを使用することで成り立つ社会とは、コンピュ−タが主導権を握る社会のことで、何もかにもがコンピュ−タの監視から逃れることができない生活を意味してる。人間が本来持っていた直感とか感性よりも、合理的な統計の数字に価値を認める社会になる。ところがとことん突き詰めていくとはたまたネットワ−ク社会に至ると、脳と脳をつなぐ人間至上の世界がコンピュ−タを凌ぐハイパ−・ニュ−ロ・ネットワ−クを作ってしまう。つまり人間同士が共感する場であるインタ−ネットに、宇宙からの情報が舞い降りてきたとき最初に反応するのは人間で、コンピュ−タはあくまで自らの意識形成の過程を踏まなかった道具でしかないことがわかる。自ら意思を持たないのだ。 と安心しているとどっこい転覆されることもあり、それゆえにこの世のなかは面白いという構造もできてくる。つまりコンピュ−タと人間は敵対することなく共同戦線を張りながら、地球を一つにまとめる働きを発揮するかもしれない。個人レベルの発見が瞬時に世界中に伝えられ、あたかも地球全体が一つの生命体のように反応して、ホ−ルネスな意識を共有する事態に至る可能性がある。人間は地球という名の生命系のニュ−ロンであり、地球は共通する意識を統一していくが、過去に失敗したファシズムの過ちを犯すことはないだろう。