〈下山、長距離歩行〉

  下山は同じルートでキボハット経由でホロンボハットまでの予定、二日かけて来た道を今日中に戻るのだ。上部の岩稜地帯を過ぎて、砂礫地帯を下ると埃っぽい事甚だしい。「砂走り」と言った具合で砂塵が舞い上がり全身が白っぽくなる程だ。5200m地点まで下りるが、やはり山頂付近とはだいぶ違う。断然呼吸が楽なのである。しかし強烈な日差しで暑く感じる、ここが赤道直下であることを実感する。

 11時キボハット(4720m)に帰着。紅茶が準備されている。ほどなく、ホロンボハットまで下山開始。昨日来たばかりの、砂漠の長い長い道のりである。今日の日差しは強い、ジリジリ焼けるようだ。日の当たる所は「暑い」ではなく「熱い」と言う感じ。気温は、4500m地点で18〜20℃位である、昨日よりだいぶ気温が高く風もない。昨日も快晴だったが8〜10℃だった。

 長い、長い、長〜い道。歩く、歩く、歩く。

 いくら歩いても、歩いても同じ景色。

 疲れる。水がもう無くなった。

 もう陽が西に傾いて来た。
さすがに足が痛くなってきた、体が埃っぽい。もうくたびれ果てた頃に再び、美しくも荒々しいマウエンジ峰が迎えてくれる、「鬼神」は言い過ぎだったかな。

 16時30分ホロンボハット着(3700m)、疲れた。本日の行動時間、4000〜5000mの高所で実に17時間半である。長〜い一日であった。埃まみれのままシュラフに入り寝る。

 〈下山2日目、もうかりまっか〉

 ホロンボハット(3700m)、早朝、4時半起床。
太陽光発電のバッテリーを節約していたので照明が使える。外は真っ暗である。空は満天の星、一面の星。高所ではとにかくすごい数の星だ。どう表現したら表せるのだろうか。
「マウンテンの星」なんちゃって!

 それにしても昨日の4000〜5000m級もの高所で17時間半におよぶ長時間行動は、大変だった。久し振りに足にマメをつくった。幸い今日は、痛くない。よく眠れたし、疲れもだいぶ取れた様な気がする。

 朝食は、ボソボソの食パン、例の白いオムレツ、ベーコン、紅茶、マーガリン、ジャムといった感じで毎日繰り返す。スープが付いたり、一品ぐらい変わる事もある。今日から、無理に紅茶を飲まなくても良いのだ。

 6時半、晴天。ホロンボハットを出発、二日かけて登った所を一日で下りる予定。今回も霜柱がある、寒いのでゴアテックスの上着を着用。快調に下山。時々、登りのパーティとすれ違う。白人のグループが多い。たまにカップルにガイド一人とポーターなんてのもいるし、さらに単独でガイドとポーターを一人ずつ雇って登ってる人もいた、全部で450ドルでOKとの事。聴いた当旅行会社のガイドは、何となく渋い表情。

 メンバーに大阪出身が二人いたので、浪速の挨拶を教わった。「もうかりまっか〜」「ボチボチでんなー」

 面白い、気に入った。キリマンジャロ登山の記念に現地人には、この言葉を日本の挨拶という事にして教えていくことにしよう。すれ違うポーター達に「もうかりまっか〜」を連発する。白人の中には、とても陽気でフレンドリーな人もいるが、大方はすました感じでつまらないので型通りの「ジャンボ」か「ハロー」にする。程なく、思いもよらない反応が現れた。

  大荷物を担いだ若いポーターとすれ違いざまに、「もうかりまっか〜」と言ったらすれ違った後ろからボソリと「ボチボチね〜」の声が聞こえてきた。我々一同、唖然とした。ちょっとの間をおいてから大笑いしてしまった。誰か、同じ事を考えた日本人が既にいたのだ。

 9時、マンダラハットに到着、数日しか経ってないのに懐かしい感じ。一休み。管理棟で売っているビールを飲む(3ドル)。再びマラングゲートを目指し下山。登るとき難儀した登山道はだいぶ乾いて歩きやすい。途中、日本人のパーティとすれ違う、若干の情報を提供。歩きながら、早く風呂に入って砂漠の土埃を落としたいと考える。

 14時、マラングゲートに到着。ゲート前の売店で記念にマップを3枚を買う。ここで登頂証明書の手続きと交付に時間がかかる。ここで、せっかく仲良くなったのにガイドやポーターとお別れのセレモニー。