テッチ・オッタン
(フリーライター)

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朝、目覚めるとヨシノリの疲れた顔が目に入った。まだかなり顔が腫れている。
朝食でもとろうと、ホテルのレストランに行こうとしたが、ヨシノリは俺の手を引いてドンドン、ホテルの中を進んであちこち見渡している。どうもママを捜しているらしい。しょうがないから付き合うことにした。しかし顔の腫れがひどい子供と父だけの取り合わせというのはちょっと奇異な感じがする。
さんざんホテルの中を走り回っても発見できないママに業を煮やしたのか、ヨシノリは外に出ようとしているのであわてて静止し、予定より早くホテルを出発することにした。不忍池の近辺をうろつく方がまだ何とかごまかせそうな気がしていたからだ。ヨシノリをトランクの上に乗せ、ホームレスのオッチャンを横目に見ながらゆっくりと京成上野駅に行き、少しオヤツを買ってやり成田へと向かった。

 最初のうちは調子も良かったのだが、成田が近付くにつれて又我慢できなくなってきたらしく「帰りたい」とでも言いたげに俺の手を取り、電車が止まるたびに必死に引っ張って泣いていた。しょうがないからデッキに立って抱いてあやしていたらやっと着いた。成田に着いて取り敢えずメシでも・・と思ったがヨシノリは全くその気がないらしく「ラーメンでも食べよう!」と言っても見向きもしなかった。仕方なく幼児の本やオモチャを買い込んでコーラを飲みながら一緒に行く人達との待ち合わせ時間までボーッとしていた。やっと主催者の一人の矢内さんと会うことが出来た。俺達は先発で、あと三人のメンバーと行くことになった。伊賀ちゃん(うちの嫁さんに似ている)とケイコちゃん(通称バーニー、ディズニーランドでバイトしている)、マコト(千葉大生?)である。しかし席がてんでバラバラで、あまりコミニケーションをとることは出来なかった。ヨシノリは何となくこの飛行機に乗ったら帰れると思ったようでやたら機嫌が良く、三人がけの椅子を二人分占拠し、はだしで寝転がりながらニコニコしていた。

 デトロイトまでの12時間は比較的楽だった。電車と違い途中で止まる駅もないし、食べ物もマズイが一応出てくるので、取りあえずおとなしかった。しかし暇を持て余しているのかやたらトイレに行きたがるので、閉口していたら10分とたたないでまた、「オシッコ」と言う。「ウソだろう」と言って取り合わなかったら、本当に出てしまいシートの上に漏らしてしまった。こういう時に英語で何と言うのか俺は知らなかったので、適当に毛布をシートの上に敷いておいたら、降りる時には乾いていたので「マッいいか!」と思いそのままで降りた。後でよく考えたら、飛行機の中はエアコンがきつかったので冷えたのかもしれない。デトロイトの空港に着いて5時間位待ち時間があったが、食い物はどこもまずいし空港の中はバカでかく、端から端への移動が大変だった。ヨシノリはママがいるんじゃないかとあちこち捜し、マイアミへの出発前まで泣きわめいていた。