テッチ・オッタン
(フリーライター)

6/15
 マリオットビスケイベイの一家で今日も習慣でAM3:00目を覚ました。寝れないので帰途の準備をした。ヨシノリやクルー、そして乗船の皆との非常に暖かいふれあいを思い再び眠れなかった。目をつぶるといつもの席に座って日本から持ってきた本を大事にしながら何度も読んでいるヨシノリが目に浮かぶ。今度は家族皆で来たいと心から思っていた。でも、少し泳ぐのも覚えたほうがいいかな。と思いながらやっと眠りについた。
次に日になりいよいよ帰途のハードスケジュールが始まった。都合20時間以上飛行機で移動するのだ。マイアミからの空港のショップでお菓子を見つけて買ってから行くぞというふうに頭をポーンとたたいてヨシノリを促すと隣にたっていたアメリカのオッサンが「ヘイ、何で子供の頭を叩くんだ!!」と目をひん剥いておこっていた。俺はビックリしてヨシノリをかかえてスタコラサッサと逃げ出した。やっぱりここはアメリカだと幼児の虐待には相当うるさい国だ。入国の時はよく何も問題にならなかったもんだといまさら思う。飛行機に乗るとちょうど一番後ろの席だったので朝食のバナナが目に入った。あれをよこせと言ってヨシノリは大騒ぎをしていたが「もう少し待ったら必ずくれるからね」と言ったら少しわかったのかちょっとおとなしくなった。しかし朝食についたコーンフレークに牛乳をかけてヨシノリが2口食べたときその入れ物が恐ろしくて不安定だったのでものの見事にひっくりかえしてしまい服の上とシートが牛乳まみれになってしまった。とりあえず服を着替えさせてシートの上には何事もなかったようにタオルと毛布をかけてしのいだ。もう慣れたもんだ。しかし服の替えは荷物を減らすために1セットしか用意していなかったのでちょっと不安になったが何とかなるだろう。デトロイトに着いて嫁さんに言われていた土産のチョコレートを探してやっと発見したが2個$7.99のバーゲン価格のためかレジの前に5.6人並んでいた。20個位買おうとして並んだがヨシノリがむすがってなかなかチャンスがない。そこで日本から持ってきたバックの中に密かに隠しておいたお菓子のほかヨシノリの好きなスポーツドリンクを持たせてマコト達のいる所に託しておいて150mほど離れたそのショップまで走って買いに行った。20個を山のように積み上げてレジの前に置くとショップのお姉ちゃんは大げさにTOH!!と目を見開いていたので俺は「イエイ!」と頭に乗って叫んでいた。

何とかチョコレートをゲットしてプラプラと歩いているマコトが泣き喚くヨシノリをおんぶしながら走ってきた。「突然泣き出してどうしていいかわからないんで連れてきました。」とゼイゼイと言った。よく見るとさっき渡したスポーツドリンクの口をまだ開けていなかったのだった。そういえば多分開けてくれるだろうと思って何も言わなかったんだ。スポーツドリンクの口を開けて飲ませると案の定ピタリと泣き止んだ。時間になってやっと成田行きの便に乗り込むことができた。するとエンジン点検のためと20分ほど遅れるという。フーンと思っていたら20分が1時間、1時間が1時間30分と結局2時間も飛行機に乗ったまま待たされた。その間エンジンが動かないのでエアコンも効かず出てくるのは水だけ。おまけになぜか俺たちの席の前はごっつい小錦のようなプロレスラーが座ることになってしまった。しかしヨシノリは飛行機にも慣れたせいか上機嫌で鼻歌まじりでシートの上で本を読んでいた。少し疲れてウトウトすると突然前に座っているプロレスラーが「ヘイ!」と怒鳴るのでびっくりして目を覚ますとヨシノリが鼻歌を歌いながらその前の席の背をドンドンと蹴っ飛ばしていた。俺は「ソーリ!ソーリ!」と連発してあわててヨシノリの足をひっぱたいた。また、ウトウトしていると今度はスチュワーデスが「ヘイ・ドント・キック・ミー」と叫んでいる。見るとヨシノリが通路側に足をだしてスチュワーデスのケツを蹴っ飛ばしていたようだ。「ソーリ!ソーリ!」と連発してひたすら謝った。こうなるととてもじゃないが寝てもいられない。今度は必死になってヨシノリを寝かせたかった。成田が近づくに連れて一つの不安が持ち上がった。千歳への乗りつぎの時間があまりないのだ。多分40分くらいだろう。日本人スチュワーデスに話して前の方の席に座っていた仲間連中に席を替わってもらうことにした。ところがもう降下しかかっていた時だったので別のスチュワーデスに席をたつなとたしなめられてしまったので頭にきて「アイム・トランシット・」「アイム・チェンジシート」と怒鳴ったらスチュワーデスも圧倒されてスゴスゴと引き下がっていった。こういうときはやっぱり気合だね。
成田に着いて真っ先に出してもらい係員の後ろについていくと税関も入国審査もあってないようなものでほとんどフリーパスで形式だけで通してもらい悠々と間に合った。後から呑気なアメリカ人がぎりぎりで間に合って「ノースはノーラブリーで困る」なんて言っていた。
帰りの千歳行きは日航で広広としていて乗客も少なくゆったりとしていた。「この飛行機を降りたらママとユウキが迎えにきてるよ」と言っていたのでヨシノリもニコニコしていた。やっとの思いで飛行機を降りて迎えの中にヨシエやユウキの顔を見つけると思わずホットした。ヨシノリに「ママの所へ行ってなさい」というとアレ!なんでこんなところにママがいるんだろう。本当にパパと離れちゃっていいのかなっていうような顔して俺の方を振り返ってみていたのが印象的だった。ちょっと躊躇したあとママに抱っこされてクシャクシャな顔をして喜んでいたっけ。それを見て俺たちの長い旅もやっと終わった気がした。


おわり