テッチ・オッタン
(フリーライター)

6/7AM4:19
 昨日出発したこのツアーも今日にはいよいよバハマ入りしてハードな移動を終了する。俺達の場合は一昨日からスタートしているので、より厳しいと思うが、ヨシノリはあいつなりに非常に良く頑張ったと思う。
 5日の朝10時からマイアミに着く6日夜8時(日本時間6日朝9時)まで47時間、汽車に乗ることさえ初めてのヨシノリが、飛行機を乗り継いでここまで来たのは確かに無謀といえるかもしれない。出掛けには口内炎の痛みで一晩中寝てなかったし、その痛みに耐えて熱も38.8度まで上がり、顔は「お岩さん」のように無残に腫れて、アメリカの入国審査で幼児虐待の疑いをかけられるんじゃないかと冷や冷やした位だった。自分でもほっぺたの内側が痛いらしく傷に触って気にしていた。しかしヨシノリも俺が側にいるものの千歳空港あたりからしきりに「ママ、ママ」を連発しだした。上野のホテルでは、寝る前に思い出したらしく夜中の3時過ぎにようやく寝入ったほどだったのだ。

 次の日も朝からママを探しにホテルをくまなく歩き回ったが、いないと分かると外に出て行こうとしたので、たしなめるとハデに泣きわめいていた。京成のエアポートライナーに乗っても成田空港まで行かずに、「その前の駅で降りる」と連発していた。そういえば羽田から浜松町に向かう時も2つ、3つ前からパニックを起こして周囲の乗客がシーンとしてしまうほどだった。
 デトロイトを出発する時も騒いだが、アメリカ人は温かい目で見守ってくれて、席を譲ってくれたり「大丈夫か?」とか「言葉が話せないならペンと紙を貸そうか?」とか「顔が痛そうだけどどうしたんだ?」とか非常にフレンドリーに接してくれて心強かった。しかしマイアミ行きの飛行機の離陸寸前に、パニックになって飛行機から降りるとわめきだし、その挙句「シッコ!」だとウソまでついたのには正直言って参った。結局離陸を少し待ってもらいトイレへ行ったのだが、入ったとたん「ナーイ!」とすまなそうに俺に言っていた。しかしアメリカの人々はみんな優しく温かい目で見守っていてくれた。

 やっとバハマに到着、これでヨシノリも少しは落ち着くだろう。チェックインしたホテルのレストランで食事を摂ることにした。自分はジュースとパンにイタズラしたあと、「ごちそうさん」と言いまた帰りたがった。僕はヨシノリと一緒に食べようと思いスパゲッティーを注文していたので「まだダメだ!」と言うとまたパニック!!仕方なく僕はいったん、部屋に戻りヨシノリを説得した。「食べたくないならこの部屋にいなさい。だけど俺はスパゲッティーを食べに行くよ。」と泣きわめかれても、部屋の中ではどうにもないと思ってじっくり押し問答をした。それでようやく納得したようだったのでレストランに戻るとまたパニック!仕方なく手を引かれるまま行くとママの所に行きたいらしく「外へ出る!」と言う。空港行きのシャトルバスに乗りたいそぶりをするので「それはダメだ!」と言うとまたまたパニック!!しかし自分でもそう簡単に帰れないくらい遠くに来てしまっているのは分かっているのだろう。
 4〜5回ロビーと玄関を泣きながら出たり入ったりしているうちに根負けしてやっと、レストランで俺の食べるのを待っていることで折り合いがついた。しかしだんだん彼なりに気持ちに変化が出てきたような気がする。「おまえが泣いているとみんなも嫌だし、俺も嫌だからやめてくれ!」というような言い方に対して少し理解しだしている気がする。ようやく少し楽しみが出てきた。